中国詩人 牛 漢 の作品「半身の木」半身(はんみ)の木牛 漢(ぎゅう・かん)作、泉ユキヲ 訳 ほんとうさ この目で見た、 わびしい丘に立つ半身の木。 人間みたいに 荒びる風をはばかり 横っちょ向いて立っている。 二月のこと いなづまにひとたび撃たれ 木の先っぽから根っこへと すっぱり真っ二つ 半身になった。 春が来たとき 半身の木は すっくと立ったまま 青々とした枝葉をまとった。 半身の木は ふつうの木と同じ丈(たけ)のまま、 ふつうの木と同じ気高さのまま。 人々は言った、 いなづまがまた来て撃つぞ。 すっくと高いままだから。 いなづまが彼方(かなた)の空から見さだめる 半身の木。 1972年 湖北省 咸寧(かんねい)にて 牛 漢 (Niu Han) 大正12年・1923年、中国・山西省生まれ。本名、史成漢(し・せいかん)。 漢人だが、祖先はチンギス・ハンに仕えたモンゴルの武将。15歳で中国共産党地下組織に加わり、16歳で詩作を開始。昭和21年、23歳で学生運動中に投獄され、昭和30年には中国共産党から反革命を批判され、昭和32年に党籍剥奪。 昭和41~43年、文化大革命で幽閉され吊し上げ・強制労働の日々。昭和44~49年、湖北省に送られ野良仕事。「半身の木」は、このとき執筆された。 昭和55年に名誉回復。現在、中国詩歌協会副会長、中国作家協会全国名誉委員。 邦訳に、秋吉久紀夫(くきお)訳編『牛漢詩集』(土曜美術社出版販売・刊)がある。 (上掲の泉訳は秋吉訳を見る前に訳したもの。泉訳のほうが原文に忠実で、かつ詩的であると自負しております。) |